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sakanaの日記

ある短い時間の記録

冬の朝、2歳の息子がわたしの顔を叩き、目を覚ます。

まずGarmin の腕時計を覗く。もう9時過ぎだ。寝過ぎてしまったと思う。とりあえず息子をくすぐって反撃を与えると、ケラケラと高い声で笑う。ゆっくりと体を起こし体のあちこちを伸ばす。 カーテンを開けると、まだ薄く新鮮な日光が部屋の中に差し込む。寝室の埃が舞っているのが見える。トイレに行き、顔を洗い、T字剃刀で素早く髭を剃る。その間、息子がわたしの周りでうろうろしている。一通りの朝の準備を終えると、息子をベビーサークルに移動させる。コップ一杯の牛乳を温め、息子に渡すとごくごくとすぐさま飲み干してしまった。

キッチンに置いてあるバナナの房から目についたものを1本取り出し食べる。食べながら、息子の好物であるうどんを温め、自分のコーヒーをペーパードリップで淹れる。バナナを食べ終わる頃には、うどんとコーヒーが出来上がっている。うどんをキッチンバサミで丁寧にきり、短くしておく。 息子をキッチンのテーブルに座らせ、うどんとスプーンを渡す。すぐに食べ始めようとするので、一旦器を取り上げて急いでナプキンをつける。そして、もう一度テーブルに器をを置くと、不器用にスプーンを持って一口、そして、「おいしい」と喋る。息子が今知っている数少ない日本語の一つである。

妻の部屋を覗くと、マスクをして眼鏡をしたまま寝ている妻とその脇にぬいぐるみのようなサイズの娘を見つける。二人の顔を覗き込むと、娘はわたしの顔を見てこれ以上ない笑顔を見せる。目は細まり、口角が上がる。混じりっけのない、笑顔の標本のように思える。 妻の横にいる娘を抱き抱え、一度バウンサーに置く。キッチンのコーヒーと読みかけの小説をダイニングテーブルに持ってきて、一口コーヒーを飲む。熱いコーヒーのひとかたまりが喉をごくりと通過し、ようやく脳や目に血液が巡ってきたような気分になる。

娘をバウンサーから持ち上げ、ダイニングテーブルに戻る。さいわい、息子は新幹線のおもちゃで遊ぶのに熱中しているようだ。もう一度コーヒーを飲み、読みかけの小説のページをめくる。今日の予定は何もないのだ。 そのとき、ある種の幸福を見つけた。まだ何も確定していない。可能性だらけの幸せを見つけた。これが長くは続かない儚い時間であることもわかる。すぐに息子の不機嫌な声に読書は中断され、色々な不愉快な雑事を思い出すだろう。だが、わたしはひとつ幸福な時間を見つけた。それを記しておく。

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